2016年3月21日月曜日

◆КНИГА『ユダヤ人虐殺の森―リトアニアの少女マーシャの証言』


リトアニア出身の作家マリア・ロリニカイテによる『マーシャの手記』に沿ったノンフィクションである。

先日特集上映で観たクロード・ランズマンのドキュメンタリー映画「ショア」や「ソビブル、1943年10月14日午後4時」では、絶滅収容所におけるウクライナ兵士のナチス・ドイツ以上の憎まれぶりが目についた。
この本によれば、彼らはウクライナがドイツに占領され捕虜になってナチス協力者となった義勇兵で、制服の色から「黒の連中」と呼ばれた監視員で親衛隊員以上に粗暴で恐ろしかったと収容所の生存者の多くが証言しているという。

強制収容所の体験の証言を読むのは勿論心が痛むが、それ以上に解放後ビリュニュスに戻ってから「ユダヤ人全員が殺されなかったのは残念」という町の人の言葉、「抵抗せず収容所送りになった、ナチス・ドイツの言いなりになった、同じ民族の恥」という知人の言葉に傷ついたという、”その後”の残酷な周囲の様子に、やりきれない思いを抱かずにいられない。

◆КНИГА『イワンとふしぎなこうま』


「ロシア民話」として知られるエルショーフの「こうま」のお話。
イワン・イワノフ=ワノ監督のアニメーションが手塚治虫に大きな影響を与えたことでも有名な、旧題「せむしのこうま」。

いくつもいくつも 山をこえ
いくつもいくつも 森をこえ

浦先生の名訳炸裂。完全な五七/七五調ということでもないけれど、歌を歌うような物語にふさわしい調べの訳をされている。
「ロシア民話」と認識していたが、エルショーフの創作民話だったのか。
エルショーフがこれを書いたのは大学時代の授業レポートでだったという、訳者あとがきに驚き。

エルショーフ、それに名訳の浦先生に大いに感謝。

2016年3月6日日曜日

◆КНИГА『チェーホフ 七分の絶望と三分の希望』


沼野充義先生はドストエフスキーとかチェーホフみたいなロシア文学の王道の翻訳や評論より、サブカルとか最先端のロシア文化の紹介をし続けて欲しいのだが、その点はそろそろ世代交代なのかもしれない。
チェーホフ作品の定番訳の見直しなどもかなり外し気味で残念な感じ。やはりチェーホフ一筋に入れ込んできた方の解説の方が説得力ある。
それと第8章「革命の女たち」も、新鮮さはないなあ。『令嬢たちのロシア革命』を読んだ時ほどは。
なあんて偉そうなことを書いたが、さらっとおもしろく読めます。

2016年3月5日土曜日

◆КИНОФИЛЬМ「もしも建物が話せたら」~ロシア国立図書館

「もしも建物が話せたら」 渋谷アップリンク 上映中
ドイツ・デンマーク・ノルウェー・オーストリア・フランス・アメリカ・日本2014年
Сегмент о Российской Государственной Библиотеке для серии документальных фильмов "Соборы культуры" режиссер:Михаэль Главоггер
WOWOWで放映されたことがあり、今後も放映の可能性があるのでは?

①ヴィム・ヴェンダース「ベルリン・フィルハーモニー」@ドイツ・ベルリン ハンス・シャロウン設計1963年竣工
②ミハエル・グラウガー「ロシア国立図書館」@ロシア・サンクト=ペテルブルグ ネフスキー大通り エゴール・ソコロフ設計1796年竣工
※ゴスチヌィ・ドヴォールとエカテリーナ二世の銅像のあるオストヴォフスコヴォ広場に挟まれた区画にある(旧館)。

参照『ロシア建築案内』
2002年秋、ギャラリー間で開催された「コンスタンティン・メーリニコフの建築1920s-1930s」会場で目にして虜になった。この展覧会の衝撃も大変なもので、会場の建物を出てすぐの公衆電話(携帯電話も発達していなかった頃なのだ)からブックデザイナーのリューダさんに電話して「これ、絶対観にいらっしゃらないといけませんよ!」と強引にお誘いしたほどである。
この本の充実ぶりも凄い。さすがに発行から10数年経ち、各都市の様相、建物や地名も変わってしまったものが多々あるが、ロシア旅行前には必読書の筆頭に挙げられる(訪問中も持って歩きたいが少々分厚く携帯には向かないのが残念)。
モスクワ・ペテルブルグのみならず結構な地方都市まで網羅しているし、細かい情報まで載っていて至れり尽くせりのありがた~い、そして心強いガイドである。

 ↑
この本の177ページに国立図書館の建物が載っているのでご覧あれ。

③マイケル・マドセン「ハルデン刑務所」@ノルウェー・ハルデン 2010年竣工ハンス・ヘンリック・ホイルン設計
(休憩)
④ロバート・レッドフォード「ソーク研究所」@アメリカ・サンディエゴ 1963年竣工ルイス・カーン設計
※ルイス・カーンはエストニア生まれのユダヤ系アメリカ人
⑤マルグレート・オリン「オスロ・オペラハウス」@ノルウェー・オスロ スノヘッタ建築事務所設計2007年竣工
⑥カリム・アイノズ「ポンピドゥー・センター」@フランス・パリ レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャース設計1977年開館
※カリム・アイノズはブラジル人。

165分の長時間ではあるが、一つ一つがTVで言えば1時間番組でもよさそうな重くて深い内容を持っていて、長さを全く感じさせなかった。
友人の意見は
・前半3つが特に良い。
・ロシア国立図書館とハルデン刑務所が哲学を感じさせる。
・ソーク研究所は新興宗教のプロモーションビデオのよう。
であった。

私は3/2日のドイツ、ロシア、アメリカ、ノルウェー、フランスのドリンク付き上映会に行ってみてきた。
ドリンクはノルウェービールにした。

お菓子も、さらにボディーソープ試供品のプレゼントも付いて来た。
飲み物はお代わり自由というので、休憩中に二杯目。
二杯目はロシアドリンク、といってもヴォトカじゃなかった。紅茶中にジャムが投入された日本式ジャム紅茶だった。残念。

かき混ぜて飲むように言われた

これならジャムお湯割り方がロシアらしくなるのでは。と言いつついただきます。スパシーバ。

友人が前半3本がよいというのは、私もそんな風な気はする。

アートな作品オムニバスの中でもアートに徹し最難解なのがこれが遺作となったミハエル・グラウガー「ロシア国立図書館」。
他の5作品は建物が自ら解説する(少しは)がペテルブルグのこの図書館、自己紹介全く無くロシア文学朗読に終始している。
ゴーゴリの「ネフスキー大通り」からゴンチャロフ、ベールィ、ブロツキー、もしかしたらグリーンも?文学作品朗読続きそろそろ自己紹介するのかと思いきや。この主観的な作りがいかにもロシアっぽい。
ロシア語の朗読にボイスオーバーする英語はかなり省略され、日本語字幕はさらに短く不親切。眠たくなるという感想を持つかもしれないから、出典を示すとかもう少し工夫が必要ではないか?もったいない。

映像の方も、やたらアナログな司書たちが古くて朽ちてしまいそうな本をあちらこちらに移動している様子が何か意味あることか謎のまま。やはり主観的でレンフィルムの雰囲気濃厚だった。
ソクーロフ?いや、むしろフルジャノフスキーかもしれない。

刑務所のは、事前情報が入ることが多かったため、あんまり画期的に自由な施設とは感じられなかった。むしろ結構監視が厳しい風に思えた。
男性受刑者の身体検査の際に、女性看守が傍らにいて目を反らしているが、そんなときに男女の看守が行う必要があるのだろうか?謎である。
男女看守らのものものしい防弾用胸当て脛当て等を装着して準備してどこぞに整列して向かう場面も謎だった(テロ対策かなんかの訓練?)

わかりやすいのはフィルハーモニーやオペラハウス。
建物が使われる様子が目に見え耳に聞こえてしかもそれが快い。

(書きかけ)