2012年8月26日日曜日

◇КИНОФИЛЬМ(映画情報)日本アニメを変えた一本


世田谷文学館無料アニメ上映会
915日(土)14:00~ 芦花公園・世田谷文学館1階文学サロン

「せむしのこうま」«Конек-Горбунок»イヴァン・イヴァノフ=ヴァノ1947年ソ連

「宮崎駿が選んだ50冊の直筆推薦文展」の関連イベントなので、展覧会のチケットが必要で、先着120名。

★最近は改題した「イワンの仔馬」名で上映されることが多いです。イヴァノフ=ヴァノはディズニー作品の模倣から脱し、ロシアのお伽噺や伝説を題材に作品をソヴィエトアニメの礎を築き、またノルシュテインら多くの優れた後進を育てました。レフ・アタマーノフの「雪の女王」が宮崎駿監督のターミネーターとなったように、この作品は手塚治虫の「火の鳥」に大きな影響を与えました。そういう意味で日本のアニメーションの歴史を変えた一本。

2012年8月18日土曜日

◇СПЕКТАКЛЬ(演劇情報)うちの犬の方がおりこうなんだから!


「結婚の申し込み」«Предложение»

劇団東演×岩手ぶどう座 合同公演
922日(土)~101日(月) 下北沢・東演パラータ
アントン・チェーホフ作・伊賀山昌三翻案・原田一樹演出
Aキャスト:豊泉由樹緒、菊池啓二(ぶどう座)、落合咲野香
Bキャスト:能登剛、清川佑介、大川綾香

★やはり三人芝居の「めくらぶんど」との二本立て。チェーホフの一幕物を日本の農家のやりとりに置換え、方言の豊かな表現力を再発見しようというアトリエ公演です。

2012年8月11日土曜日

◇КИНОФИЛЬМ(映画情報)無声映画の雄弁


シネマの冒険 闇と音楽 2012 ロシア・ソビエト無声映画選集
94日(火)~99日(日) 京橋・東京国立近代美術館フィルムセンター大ホール
 

☆帝政ロシア時代から1920年代のソヴィエト映画の名作までの8本の作品。有名な作品からかなりレアなものまで、フィルムセンターならではのセレクション。見逃せません。以前ウクライナアヴァンギャルドに書いていたグループの人たちが出てきます。



1.「スペードの女王」«Пикавая дама»
ヤーコフ・プロタザーノフ監督1916年帝政ロシア

★監督はあの「アエリータ」«Аэлита»のプロタザーノフ、主演は名優モジューヒン(革命後フランスに亡命して「キイン」«Кин»,「カサノヴァ」«Казанова»,「白魔」«Белый дьявол»等に出演)。原作はアレクサンドル・プーシキン。

  「人生には人生を」«Жизнь за жизнь»
エヴゲニー・バウエル監督1916年帝政ロシア

★帝政ロシアのメロドラマ。ヒロインを演じたヴェーラ・ホロードナヤはミハルコフ監督「愛の奴隷」のモデルになった帝政ロシア時代の人気女優。



2.「セルギー神父」«Отец Сергий»
ヤーコフ・プロタザーノフ監督1918年ソ連

★「スペードの女王」と同じくヤーコフ・プロタザーノフ監督でイワン・モジューヒン主演の作品。セルギー神父を誘惑する未亡人を演じるのはモジューヒン夫人のナターリヤ・リセンコ。原作はレフ・トルストイ。



3.「プライト技師の計画」«Проект инженера Прайта»
レフ・クレショフ監督1918年ソ連

★ブルガーコフみたいなファンタスチカ+ボリス・バルネットみたいな活劇。

 「ポリクーシカ」«Поликушка»
アレクサンドル・サーニン監督1919年ソ連

★レフ・トルストイ原作。「駅長」(「ポスタオマスタア」)«Коллежский регистратор(Станционный смотритель) »監督・主演のイヴァン・モスクヴィンが主演している。



4.「ズヴェニーゴラ」«Звенигора»
アレクサンドル・ドヴジェンコ監督1927年ソ連

★これまで「ズヴェニゴーラ」と表記していたのだが。ソ連無声映画三代巨匠のひとり、ウクライナ最大の鬼才ドヴジェンコの出世作。



5.「新バビロン」«Новый  Вавилон»
グリゴリー・コージンツェフ&レオニード・トラウベルグ監督1927年ソ連

★この作品はショスタコーヴィチの音楽で知られる。しかしピアノ伴奏なしの回ではサイレント上映なのか?後に「ハムレット」«Гамлет»,「リア王」«Король Лир»でシェイクスピアの母国を震撼させたコージンツェフとトラウベルグは実験演劇(エキセントリック俳優工房)・映画(「女ひとり」«Одна»)で共同演出・監督をし、その後独立。ヒロインのクジミナはボリス・バルネットと結婚、「青い青い海」«У самого синего моря»,「国境の町」«Окраина»でヒロインをつとめている(が離婚した)。「新バビロン」はデパートの名前。



6.「帝国の破片」«Обломок империи»
フリードリヒ・エルムレル監督1929年ソ連

★後に「呼応計画」«Встречный»が大ヒットしたエルムレル、第一回カンヌ映画祭にも「偉大な転換」を出品しています。表現の斬新さとテーマのソヴィエトチックなところに驚かされる。

2012年8月5日日曜日

◇КИНОФИЛЬМ(映画情報)新百合ヶ丘の夏*新作「ファウスト」とソクーロフ選集


818日(土)~31日(金)(20日(月)休映) 新百合ヶ丘・川崎市アートセンター
☆「ファウスト」は一日3回上映(25日~31日は一日1回)上映、ソクーロフ選集は1800より一日1回、日替わりでの上映。

「ファウスト」«Фауст»アレクサンドル・ソクーロフ監督ロシア2011

★あのゲーテの「ファウスト」が原作のドイツ語作品。ソクーロフの映画の中でも原作が有名文学作品であるもの(「ボヴァリー夫人」「静かなる一頁」等)はかなり辛いものがあるので覚悟して観に行こう。独自解釈のラストです。女優の選定にはいつも素っ気ないソクーロフだが、今回のヒロイン、イゾルダ・ディシャウクはロシア生まれの美女。



「ファウスト」公開記念 ロシアの巨匠ソクーロフ選集
「モーツァルト・レクイエム」«Петербургский дневник. Моцарт. Реквием»
2004年フランス

★日本初公開作品。原題は「ペテルブルグ日記―モーツァルト・レクイエム」。(「ペテルブルグ日記」と題する作品はこれの他にドストエフスキー編(1997年)とコージンツェフ編(1998年)があります。)「レクイエム」の舞台(コンサート形式のオペラ上映みたいな感じで、歌手たちが歌いながら舞台を移動する様子を延々と撮っている)をひたすら追う70分。後の「エルミタージュ幻想」にも通じる作風。

 「ヴィオラソナタ・ショスタコーヴィチ」«Альтовая соната. Дмиторий Шостакович» 
1981年ソ連

★師匠セミョーン・アラノヴィチとの共同監督作品。作曲家ドミトリー・ショスタコーヴィチの生涯を、貴重な記録映像(バレエ「黄金時代」初演時(サッカー編)の衣装などが観られる!)を駆使して描く。

「エルミタージュ幻想」«Русский ковчег»
2002年ロシア

★エルミタージュ内を巡る驚異の90分ワンカット。ゲルギエフ指揮のオーケストラも見もの聴きもの。豪華でそれまでのソクーロフっぽくない。

「チェチェンへ アレクサンドラの旅」«Александра»
2007年ロシア

ガリーナ・ヴィシネフスカヤ演じる老女アレクサンドラが、孫が赴任しているチェチェンの駐屯地に現れる。思い切り場違いな彼女に対して駐屯地の兵士たちは結構優しい(世話役を仰せつかった兵士は役立たずだが)。チェチェンの美少年イリヤスの「こんなに長く戦争をして、もう解放してほしい」という言葉に対して、アレクサンドラ曰く「日本の老女が言っている。どんなに辛いことも終わる時が来る。必要なのは理性を失わないこと。武器や暴力に真の力はない。」誰のこと?と思ったら、日本の老女японская конституция説が。憲法は確かに女性名詞、しかし<老女>扱いか。ロシア兵だけでなく、チェチェンの市井の人々もアレクサンドラ(割と我がまま気ままなおばあちゃんなのだが)にとても親切だ。しかしその親切にロシア人としてはいつまでも甘えていてはいけないのでは?

2012年8月3日金曜日

◇КИНОФИЛЬМ(映画情報)タルコフスキー記念映画祭

タルコフスキー生誕80周年記念映画祭
83日(土)~817日(金) 渋谷・ユーロスペース



♪長編作品7本のみで夭逝した天才映画監督アンドレイ・タルコフスキーは生きていれば80歳。徹底した美学を持っていたゆえに、難解で体調を整えて臨まないと睡眠学習することになる恐れあり(チラシによるとソクーロフは否定しているが)。知られている作品はこれらの他に大学時代の実習で制作した「殺し屋」«Увийцы»1956年があります。



「ローラーとバイオリン」«Каток и скрипка»1960

★映画大学の卒業制作として作った46分の短編。クラスメイトのアンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキーが共同脚本。



僕の村は戦場だった」«Иваново детство»1962

★デジタルリマスター版での上映。大変有名な作品なので説明は不要ですね。原作はウラジーミル・ボゴモーロフ作の短編小説『イワン』(邦訳は『新しいソビエトの文学2』勁草書房1967年刊に収録の『僕の村は戦場だった』中里迪弥訳)。イワン少年を演じたニコライ・ブルリャーエフは、当然ながら既に老境に足を踏み入れており、数年前にはニコライ二世役で映画に出演していたそうだ。



「アンドレイ・ルブリョフ」«Андрей Рублёв»1967

★ロシア最高のイコン画家アンドレイ・ルブリョフの生涯を描く。と言ってもそこはタルコフスキー、単なる伝記映画ではありません!主役のアナトーリー・ソロニーツィンや旅芸人役のロラン・ブィコフらとともに鐘作り職人の若者ボリースカ役のイワンくんことニコライ・ブルリャーエフも印象深い。



「惑星ソラリス」«Солярис»1972

★デジタルリマスター版での上映。原作はスタニスワフ・レムの『ソラリス』(邦訳は沼野充義訳『ソラリス スタニスワフ・レムコレクション』国書刊行会2004年刊、飯田規和訳『ソラリスの陽のもとに』ハヤカワ文庫1977年刊)。もっとも宇宙船内をイコンなどが浮遊する正教っぽい映像その他にレムは大不満だったそう(「この映画を観て誰も宇宙に行きたいとは思わないだろう」云々)だが。近未来イメージを醸し出すために70年代初頭の東京首都高の風景が撮られている。日本人にとっては広告の漢字が読めてしまうので生活感が滲み出てしまうがあちらの人にはわけのわからないちょっと不思議な空間=未来であったのだろう。



「鏡」«Зеркало»1975

★このころから老けていたオレグ・ヤンコフスキー。自伝的な要素が強く、詩人であった父アルセニー・タルコフスキーの作品を監督自ら朗読しています。



「ストーカー」«Сталкер»1979

★デジタルリマスター版での上映。近年ストーカーというと“つきまとい行為をする人”という意味で固定してきてしまいましたが、ここでは“密猟者”という意味で、イントネーションは“低高低”としてください。原作はストルガツキー兄弟の『路傍のピクニック』(邦訳は深見弾訳『願望機』群像社1989年または『ストーカー』ハヤカワ文庫1939年)。「ソラリス」のときは原作者レムと大喧嘩になりましたが、ストルガツキー兄弟はタルコフスキーが何たるものか心得ていたようで原作と全く別物になっても許してくれました。ソ連のSFは隠れた佳作が多く、これは「惑星ソラリス」とともに“SF大作”の名に恥じない作品。



「ノスタルジア」«Ностальгия»1983

★この作品の撮影中に亡命、ソ連に戻ることはありませんでした。女性の潔さに比べて男性は何をやっているのだろう?



「サクリファイス」«Жертва»1986

★遺作。日本人からすると核戦争の描き方が「え?そんなもの?」ですが(その点はほぼ同時代のコンスタンチン・ロプシャンスキー監督作品「死者からの手紙」の方が説得力あり)、カンヌでは絶賛されたそうです。