2015年6月28日日曜日

◆КНИГА『アルカーディーのゴール』

タイトルからサッカー児童文学を見つけたつもりで読んでみたら、スターリン政権下の粛清犠牲者の子どもの話だった。
この作者の前作の『スターリンの鼻が落っこちた』は意欲作ではあるのだけれど、作者本人の個人的体験と創作との乖離が不自然で、物語としてぎこちなく、ちょっとまだまだなレベルで痛々しい印象だった。
しかし、これがソ連のお話だよって、ロシア関係の人からは全然情報が伝わってこなかったな。

ああ、なあんだ。ひとまず”サッカー文学”枠で読んでみようと思って手に取ったのだけど、『スターリンの鼻が落っこちた』の作者でしたか。挿絵は作者本人のもので怖い、どうにかしてというものです。
この本も引き続きスターリン政権下の粛清犠牲者の子どもが主人公。サッカーがうまくて孤児院(というより「人民の敵」の子どもたちの収容所)から謎の査察官の元に養子に行きさらにツェスカ(文中では「赤軍サッカークラブ」)の少年チームの入団テストを受けてチャンピオンを目指そうとするが、そんなに容易に物事は進まない。人民の敵の子には試練が待ち受けているのだ…。
でも、ストーリーがまるでファンタジー(悪い意味で)で、子供騙しのような印象なんだよなあ。養親の設定もわざとらしいし。子ども相手の物語であっても、手抜きをしないでほしい。
なお、主人公が憧れるサッカー選手のブルトコはおそらく実在の選手ではない。

ソ連時代の有名なサッカー選手イーゴリ・ネット(彼の名を冠したユースの大会があるくらいだ)は、お兄さんレフ・ネットが粛清によって収容所で強制労働を課されていた。”パーミャチ(記憶)”で活動されていると『囁きと密告 スターリン時代の家族の歴史』下巻で読んだことがあるが、お兄さんが過酷な収容所での生活を生き延びたのは親族が有用な人物だったからというのも幾分有利な点があったのだろうか、いや逆にそういった親族(たてお無実であったとしても!)を持ったイーゴリ・ネットの当時の心境はいかばかりであったか、とその本を読んで思ったものだった。
チェコのイヴァン・ハシェクさんも、ご両親が法曹の職を奪われたり、お兄さんが大学進学の道を奪われたりする中で、サッカーの才能が辛うじて進学を許された、などということが伝えられている。
サッカーの才能は自分と親族を救うこともあるだろうし、体制協力を余儀なくされるという面もあるし、なかなか一筋縄には述べるわけにはいかないところだ…。


こういう話題(スターリン政権下の社会)を扱って力作なのだろうが、話がぎこちなく、絵があまりに子ども向けでないので(作者本人が描いている)、いわゆる”どん退き”になりかねない本になってしまった。