『夢のなかの夢』
アントニオ・タブッキ作和田忠彦訳岩波文庫2013年9月刊567円ISBN978-4-00-327061-5
★2012年に亡くなったイタリア人作家が表した、古今の巨匠たちが観たかもしれない夢の数々。漱石の『夢十夜』を想起する方が多いかもしれない。
★「作家にして医師、アントン・チェーホフの夢」には「六号室」「馬のような名前」「ふさぎの虫」「サハリン島」などチェーホフ作品を下敷きにしながらチェーホフの人となりを描いている。一方、芸術家の作品や人生や時代を呪っているかのようなマヤコフスキーの段(「詩人にして革命家、ウラジーミル・マヤコフスキーの夢」)はいただけないが。
★やはり描かれる芸術家を知っている方が楽しめる。カラバッジョやゴヤ、ロートレック等の画家は作品や生涯が何となくお馴染みなので、親しみやすい一方、有名かもしれない詩人たちの章は、申し訳ないが読んでないのでわからなくて近づきがたいものがある。巻末に作家自身の手による紹介文「この書物のなかで夢る見る人」があるが、チェーホフの欄は「医師ではあったが、飢饉や伝染病が発生した時しか治療を行わなかった」と“医者は正妻、文学は愛人”みたいなことを言っていたチェーホフとしてはかなり心外であろう記述がある。他の人についても客観的な記述であろうか?と思いながら、知らない芸術家のプロフィールを読んでみる。