2016年6月12日日曜日

◆КНИГА『8号室 コムナルカ住民図鑑』

画家のガガさんことゲオルギイ・コヴェンチュークが思いがけず昨年世を去っていた。芸術家の血筋としてはとても恵まれた血筋で、叩き上げの人の苦労はわからないかも、などと思っていたが、こちらはソ連時代のレニングラードの共同住宅住まいを綴ったエッセイで、これまで『ガガです、ガカの』で読んできた楽天主義満載の天才アーティストという印象とは違った面が見えてくる。
というのはコムナルカ(共同住宅)に暮らす人々の人生は、下町のお節介と人情みたいなハートウォーミングな話題に終始するほど甘くはない、いやむしろ予想以上に過酷だという読後感を持ったからだ。
何より、あの時代は過ぎ去り、当時同じコムナルカに住んでいた人々は殆どが故人である。作者のガガさんさえ、もういらっしゃらない。
『私のモスクワ 心の記録』だと当時の生活は古き良きソ連の回顧として語られるが、こちらはもっとずっと苦い味が残る。

2016年5月15日日曜日

◆КНИГА『リトヴィーノフ ナチスに抗したソ連外交官』


『令嬢たちのロシア革命』の斎藤治子先生著。内戦や干渉戦争で困難を抱え孤立無援状態だった初期ソ連で外交(と通商)に手腕を発揮した、特に軍縮・平和外交、そして「明日では遅すぎる」「今日ならまだ間に合う」と演説、ヒトラーの凶暴性をいち早く見抜き計略阻止に腐心したリトヴィーノフ。メンシェヴィキからの転向組ではなく生粋のボリシェヴィキ、粛清を生き抜く、等々興味深い人生。
ただ、現実のソ連では彼の平和外交理念が生かされたとは言えない。


2016年4月27日水曜日

◆КНИГА『南十字星共和国』

ロシア革命初期の混迷を生きた象徴派ブリューソフの、素朴に屈折した、夢幻・倒錯にまみれた短編集。後味はどれも悪い。ブルガーコフほど笑いの要素はなく、ベリャーエフほど科学の未来を信奉していないから。凄く、時代性を感じる。一方、スターリンの粛清の時代をよく生き延びたものだ…。
私はしがない文房具屋の売り子の妄想を描いた『ベモーリ』が気に入った。

2016年4月7日木曜日

◆КНИГА『陽気なお葬式』

さすがウリツカヤ。小難しくないのでさらさら読めてじっくり心に滲みてくる。でも前作の『通訳ダニエル・シュテイン』の方が好み。主人公アーリクは何故もてもてなのかな?

2016年3月21日月曜日

◆КНИГА『ユダヤ人虐殺の森―リトアニアの少女マーシャの証言』


リトアニア出身の作家マリア・ロリニカイテによる『マーシャの手記』に沿ったノンフィクションである。

先日特集上映で観たクロード・ランズマンのドキュメンタリー映画「ショア」や「ソビブル、1943年10月14日午後4時」では、絶滅収容所におけるウクライナ兵士のナチス・ドイツ以上の憎まれぶりが目についた。
この本によれば、彼らはウクライナがドイツに占領され捕虜になってナチス協力者となった義勇兵で、制服の色から「黒の連中」と呼ばれた監視員で親衛隊員以上に粗暴で恐ろしかったと収容所の生存者の多くが証言しているという。

強制収容所の体験の証言を読むのは勿論心が痛むが、それ以上に解放後ビリュニュスに戻ってから「ユダヤ人全員が殺されなかったのは残念」という町の人の言葉、「抵抗せず収容所送りになった、ナチス・ドイツの言いなりになった、同じ民族の恥」という知人の言葉に傷ついたという、”その後”の残酷な周囲の様子に、やりきれない思いを抱かずにいられない。

◆КНИГА『イワンとふしぎなこうま』


「ロシア民話」として知られるエルショーフの「こうま」のお話。
イワン・イワノフ=ワノ監督のアニメーションが手塚治虫に大きな影響を与えたことでも有名な、旧題「せむしのこうま」。

いくつもいくつも 山をこえ
いくつもいくつも 森をこえ

浦先生の名訳炸裂。完全な五七/七五調ということでもないけれど、歌を歌うような物語にふさわしい調べの訳をされている。
「ロシア民話」と認識していたが、エルショーフの創作民話だったのか。
エルショーフがこれを書いたのは大学時代の授業レポートでだったという、訳者あとがきに驚き。

エルショーフ、それに名訳の浦先生に大いに感謝。

2016年3月6日日曜日

◆КНИГА『チェーホフ 七分の絶望と三分の希望』


沼野充義先生はドストエフスキーとかチェーホフみたいなロシア文学の王道の翻訳や評論より、サブカルとか最先端のロシア文化の紹介をし続けて欲しいのだが、その点はそろそろ世代交代なのかもしれない。
チェーホフ作品の定番訳の見直しなどもかなり外し気味で残念な感じ。やはりチェーホフ一筋に入れ込んできた方の解説の方が説得力ある。
それと第8章「革命の女たち」も、新鮮さはないなあ。『令嬢たちのロシア革命』を読んだ時ほどは。
なあんて偉そうなことを書いたが、さらっとおもしろく読めます。